聴かせて、天辺の青
◇ 願いが叶うなら
河村さんの家に向かって走る車の中、海斗は不機嫌そうに口を噤んだまま。海斗の唇の端が切れているのが、助手席に座る私からはよく見える。
「痛そうだね」
「いや、見た目ほど痛くない」
何気に問い掛けても、素っ気ない返事。
もちろん会話が途切れて、続きを尋ねてみてもいいのか悩んでしまう。
海斗的には何にも聞いてほしくないのはわかるけど、私的には聞きたくてうずうずしている。
「車、何か変えた?」
「ああ、バンパーと脚周り。かなりボロくなってたから、綺麗になったのわかった?」
ん? これはいい反応かも。
なんとか会話になりそう?
「うん、そりゃあ分かるよ。前は地面を這うぐらい低かったから……あれは塵取りだね。こっちの方が絶対にいいと思うよ」
ぷっと海斗が吹き出した。
我ながら、絶妙なたとえだった?
だって本当に車高が低過ぎて、走っている姿は道路を掃く塵取り。いや、除雪車っていう方が相応しいかもしれない。
おまけに脚回りも硬いから、ちょっとした段差を乗り越える時にも跳ねて大変だったんだ。今までにも乗せてもらったことがあるけど、衝撃がお尻にダイレクトに伝わって何度も痛い思いをした。
ああ……そうか。
だから、海斗は車を触ったんだ。
バンパーと脚回りを替えて、乗り心地がよくなるように。