聴かせて、天辺の青
「瑞香は失礼だよなあ、塵取りなんて言うなよ、あれはあれで良かったんだ。どう? 前より乗り心地が良くなっただろ?」
「うん、ガツンと跳ねない気がする。やっと車内でコーヒーとか飲めそうだね」
「ああ、余裕だよ」
前方の信号が黄色から赤色が変わり、海斗がリズミカルな脚の動きで車を停める。流れるようにシフトレバーを操作した左手を挙げて、くいと親指を立てた。
きゅっと結んだ口元には笑み。痛々しいけれど、いい感じ。
機嫌が良くなってる。
そろそろ聞けそう?
「何かあったの? 車内で飲み物を飲みたいからって替えた訳じゃないでしょう?」
ああ、だめだ。こんな聞き方じゃ伝わらないかも。
もっとストレートに聞くべきだったかもしれない。海斗に何がいいたいのかわかってもらえるかな?
言ってしまってから後悔が込み上げる。
「まあ、そんなところ。俺もいい年だから、そろそろ落ち着かなきゃなぁ……と思っただけ。わかる?」
と言って、震えるシフトレバーへと手を伸ばした。信号が青に変わり、緩やかに車が走り出す。
河村さんの家はこの県道の三つ目の交差点を曲がった先、山沿いの住宅地の中にある。着くまでに、ちゃんと聞いておかなくちゃ。