聴かせて、天辺の青


「ごめんね、全然気がつかなくて、何にもしてあげられなくて」

「何言ってんの? 瑞香は悪くない。しかし俺、大したものだろ? 全然バレてなかったんだから……隠すの上手かった?」


振り向いて得意げな笑みを見せるけど、本当は辛かったんだと思う。


「うん、上手かった。よく耐えてきたね」

「まあね、半ば諦めてたから。ただ、困った時に力になれたらいいと思って。仕事場の力仕事や車の修理、タイヤ交換とか、何でも屋でよかったから」

「海斗らしいね、ホントに優しいんだから」


何故だろう、胸が熱くなる。
じんと目に染みる感覚を堪えて唇を噛んでいたら、


「俺もごめんな、瑞香に何にもしてやれなかった」


と、海斗が言った。
さっきまでの笑っていた声じゃなく、真剣な声で。


「やめてよ、謝らないで」


笑って返したはずなのに、涙が零れそう。海斗に気づかれないようにと、慌てて窓の外へと目を向ける。


すると、鼻をすする音。まさかと思って振り向いてみたら、海斗の目が潤んでる。


「ああ、もう……湿っぽくなってきただろ、もうすぐ着くのに」


荒っぽく鼻を擦って、アクセルを踏み込む。心地よい低音が体を震わせて、シートに背中が押し付けられる。


河村さんの家は、すぐそこだ。




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