聴かせて、天辺の青
「瑞香ちゃん、ごめんね。お母さんが朝からギックリ腰で動けないのよ、整形外科連れていってくるから、今日は休ませてもらうね」
河村さんが、すまなさそうな顔で両手を合わせる。
同居しているお母さんが動けないのなら、仕方ない。河村さんのほかに家のことをできる人はいないのだから。
「はい、お大事になさってくださいね。河村さんも無理しないで、気をつけてくださいよ」
「ありがとう、私は大丈夫。お店のことは藤本君にお願いしてるから、よろしくね」
ふわりと笑う河村さんの後ろから、海斗が顔を覗かせた。手にした鍵を、じゃらじゃらと揺らしながら。
「はい、任せてくださいよ」
と、いい返事。
ふたりが並んでいるのを見ていたら、幸せになってほしいと心から思えてくる。
今はまだ、まっすぐに進むことはできないけど。それらの障害を乗り越えて、どうか、幸せになってほしい。
海斗の車が走り出す。
サイドミラーを覗いたら、ゆったりした表情で海斗を見送る河村さん。
ふたりの気持ちは本物だ。