聴かせて、天辺の青
◇ 彼の願い
彼は海を見ていた。
売店の建物の裏側、海に面した柵に肘を置いて体を預けて。
頼りなさげな目に捉えているものは、すぐ目の前の涙なのか、もっと遠くの海原なのかわからないけど、確かに海。
しっとりした横顔が、ゆるりと振り返る。海斗の手の中で、鍵が転がる音に気づいたらしい。ぼんやりとしていた顔に、みるみる表情が戻ってくる。
「ごめん、待たせて悪かった」
私が声を掛けるより早く、海斗が駆け出した。急いで売店の裏口のドアを開ける海斗の背中を見ながら、彼が私へと歩み寄ってくる。
「意外と早かったな、もっと掛かると思ってたよ」
「うん、鍵をもらっただけだから。河村さんのお母さんがギックリ腰なんだって、これから病院に連れていくらしいよ」
「そうか、大変だなあ……だったら明日も来られないんじゃないか?」
「あ、そうかもしれない」
ドアが開いて、海斗が事務所へ入っていく。後に続こうとする私の袖を、彼が掴んで引き止める。