聴かせて、天辺の青
(6) 君の音が

◇ 味方になる


彼が居なくなってしまうんじゃないか。
おばちゃんの家に帰ったら、もう彼はいないんじゃないか。



そんな不安を抱えながら私は仕事を続けたけど、ほとんど上の空な状態でミスの連発。そのたびに海斗にフォローしてもらって切りぬけて。



午後には河村さんが駆け付けてくれて、早退してもいいと言ってくれたけど何とか夕方まで仕事をこなした。



何度も失敗したり、海斗や河村さんに余計な心配をかけるのなら、いっそ早退した方がよかったのかもしれない。どうして気付かなかったんだろう。



帰り道、自転車を漕ぎながら後悔が込み上げる。あっという間に膨れ上がった後悔は、仕事だけでなく他へと飛び火し始めた。



彼が帰った後、おばちゃんに電話しておけばよかった。彼が出て行ってしまわないように、どこにも行かないように見ておいてもらえばよかった。



なんてバカなんだろう。



必死で自転車を漕ぐ足が何度ももつれそうになる。勢い余ってペダルから足を滑らせたり、赤信号で止まり損ねそうになったり。



息が上がって胸が苦しくて。



お願いだから、どこにも行かないで。
私はまだ、彼に聞きたいことがあるんだから。


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