聴かせて、天辺の青
おばちゃんの家の前、彼の自転車が所定の位置に停まっている。
一応ここには帰ってきたのだとわかったけど、本当に部屋に居るのだろうか。帰ってきた後、出て行ったんじゃないだろうか。
もはや私は猜疑心の塊。
土間に彼の靴がある光景を想像しながら玄関に飛び込んだ。
いつもの場所に彼の靴が揃えてあるのを見た瞬間、腰が抜けるような感覚。脚がふらついて立っていられなくて、扉の横の下駄箱にもたれかかった。
張り詰めていた気持ちが緩んでいくのを感じながら、目を閉じて大きく息を吐く。
ようやく鼓動が落ちつきを取り戻してきた頃、
「瑞香ちゃん、おかえり」
と窺うような声。聞き慣れた声なのに、驚いて目を開けた。
土間を上がってすぐの和室から、おばちゃんがひょっこりと顔を覗かせている。不思議そうに首を傾げて、私の顔と玄関の扉を交互に見ている。
「どうしたの? 何かあった? 瑞香ちゃんも体調悪いの?」
私が下駄箱にもたれて、ぼーっとしているのが不思議だったらしい。いつもの私なら帰ってきたら真っ先に、おばちゃんより早く挨拶をするのにしなかったから。不思議に思われても無理はない。