聴かせて、天辺の青

「私も、彼は黙って出て行ったりしないと思う。きっと出て行く時には話してくれると思ってるけど……」



不安は消えない。
おばちゃんは私の背中へと手を触れて、ゆっくりと摩りながら、



「信じてあげなさい、瑞香ちゃんには話してくれるよ」



と言ってくれる。
彼を信じなさいと諭すように。目が合うと、ふわりと包み込んでくれる笑みで頷いた。



「それに彼、来た時よりもずいぶん明るくなってきたから、今すぐ逃げることはしないよ」



確かに、彼は変わったと思う。



私たちと会った時が一番最悪の状態だとしたら、今はかなり浮上していると感じられるほど。顔色も口調も、態度も。



最上の彼を知らないけれど、いつもの彼はこんな風に話したり笑ったりしていたのだと予想できる穏やかな顔で。



「うん、信じるよ」



今朝彼が見せてくれた笑顔を思い出したら、自然と言葉が零れた。
おばちゃんが、もう一度頷いてくれる。



きっと彼は大丈夫。
黙って、居なくなったりしない。



念じるように、強く言い聞かせた。






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