聴かせて、天辺の青
「小花、ほら、手を洗いに行くよ」
紗弓ちゃんの言葉に答えるように、ギシッと床の軋む音。振り向いたら、廊下に彼が立っている。
「ごめんね、起こしちゃったね、具合は? 大丈夫?」
問いかけるおばちゃんの傍から、小花ちゃんが駆け出す。泣きそうだった顔は何処へやら、すっかり明るさを取り戻している。
「こらっ、小花!」
引き止めようと伸ばした紗弓ちゃんの腕をすり抜けて、小花ちゃんが彼に飛びついた。両手で受け止めた彼は柔らかな笑顔。
「もう大丈夫です、すみませんでした。小花ちゃん、おかえり。練習しようか?」
彼はおばちゃんに軽く頭を下げて、小花ちゃんへと問いかける。店にいた時と比べたら、すっきりした表情に戻っているようだ。
「うん、する! 行こう行こう!」
「本当に大丈夫? 小花のわがままに付き合わせてしまって、ごめんね」
小花ちゃんに手を引かれてく彼を追いかけて、紗弓ちゃんが申し訳なさげに両手を合わせる。彼は振り向いて、
「いいえ、全然。気にしないでください」
と笑いながら答えた。