聴かせて、天辺の青
「だったら待ってあげなよ、私も彼が悪い人には思えない。小花だって、あんなに懐いてるし」
黙って聞いていたおばちゃんの顔が、ふわりと綻んだ。
耳に届いてくる覚束ないピアノの音。
懸命に鍵盤を弾く小花ちゃんと見守る彼の姿が、ぽうっと浮かび上がる。
彼は目を細めて、優しい横顔。
今にも振り向きそうで、恥ずかしくなって顔を伏せた。想像してるだけなのに。
「うん、私もそう思う。彼が悪い人だとは思えない」
頭の中に浮かんでる彼へと向けた言葉。
振り向くはずないけれど、届けばいいのに。
『あなたは悪い人じゃない』
だから……
本当のことを話して。
すべて、教えて。
「時期が来たら、きっと彼から話してくれるって、それまで瑞香ちゃんが彼の味方でいてあげなよ、ね」
紗弓ちゃんの言葉に、おばちゃんも頷いた。
私も彼を信じてる。
だから、今は何も聞かない。
彼が話してくれるまで、彼の味方でいよう。