聴かせて、天辺の青
取り繕うように、おばちゃんがくすっとわらう。
「そうなの、熱いお湯に長時間浸かってられないのよ。普段さっさと済ませてるからね」
「そうですか、女性は温泉が好きなものと思ってました」
「男の人の方が好きなんじゃないかな? 和田さんとか、しょっちゅう行ってるみたいよ」
おばちゃんが名前を口にするのと同時に、和田さんたちが下りてきた。まるで二人の会話を聞いていたみたいな絶妙なタイミング。
「なんや? 呼んだか?」
和田さんが台所を覗き込む。
朝だというのに満面の笑み、滑らかな口調がさらに気持ちを解してくれる。
彼も笑顔で、和田さんに応える。
「おはようございます。何時に出発ですか?」
「ああ、何時にしよ? 何か予定ある?」
「いいえ、とくに無いですから和田さんたちにお任せします」
「そうか? どないする?」
ひょいっと首を傾けて、和田さんが隣りの和室を覗き込む。和室には本郷さんと有田さんが席に着いて、朝食が並ぶのを待っている。
「わしはいつでもええよ」
「僕も、みんなに合わせます」
本郷さんと有田さんが、笑顔で手を振ってる。それよりも早く朝食を並べてくれと言いたげな顔をして。