聴かせて、天辺の青
それなのに彼は、
「はいはい、すみませんでした」
と、意外とあっさりと引き下がる。
きゅっと口を結んで、私を見据える彼の目は冷めている。それなのに、なぜか寂しげにも見えて。
私は目を逸らした。
「何かあったら、下におばちゃんが居るから。それと、くれぐれも変な気は起こさないでね。おばちゃんに迷惑掛けたりしないように」
もちろん、返事なんて期待していない。
早々に背を向けて、ドアノブに手を掛ける。早く部屋を出ようと。
「ありがとう」
ぽつりと零れた声が、私の足を止めた。
気のせいではないかと思うほどの小さな声。だけど私の耳には、はっきりと聴こえた。
そっと振り向くと、窓際に立つ彼の背中。
窓の外を眺める背中に声を掛けず、私は部屋を出た。
彼が変な気を起こさないように、おばちゃんに迷惑をかけるようなことがないように、何事もないようにと祈りながら。