聴かせて、天辺の青
◇ 聴こえない
待ち合わせの時間の五分前にお寿司屋さんに到着。
駐車場に和田さんの車はまだない。
競争していたわけじゃないけど、先に着いたことがちょっとだけ嬉しい。待つのはいいけど、人を待たせるのは嫌いだから尚更。
間もなく、和田さんたちがやってきた。負けたと言いながらも和田さんは笑ってる。
みんな揃ったところで店内へ。
カウンターに八席と通路を挟んだ向かい側の座敷に三卓しかない小さな店。
座敷席に居る先客を見て、「あっ」と和田さんたちが声を上げた。
座敷には向かい合わせに座った男女。入口の方に向かって座っている若い男性が、和田さんたちの声に驚いてる。バツが悪そうに会釈するけど、彼の顔には明らかな焦りの色が滲んでる。
彼の異変に気づいて女性が窺うように振り返る。和田さんたちを見た彼女もまた、同様に驚いた表情で頭を下げた。
なんだか気まずい雰囲気。
だけど、和田さんたちはそれ以上何にも言わない。
座敷に三つ並んだテーブルの端と端に座った。