聴かせて、天辺の青
「わかった、急がなくていいから気をつけてね」
河村さんは電話を切って、ふうと息を吐いた。
少し困った顔をして、腕を組んでファイルを睨んでる。あれはシフトが書かれたファイル。
「どうしたんですか?」
「うん、藤本君が遅れるそうよ。国道が渋滞してるんだって」
藤本海斗(ふじもとかいと)は私の高校の時の同級生で、ここのレストランの厨房でアルバイトしている。因みに、ここのアルバイトを私に紹介してくれたのは海斗だ。
「藤本君、今日はバイクじゃないんですね」
「弟さんを大亀に送っていった帰りなんだって、東行きが渋滞しているみたいよ」
大亀は隣県の大きな町の名前。ここからでは自分の県の主要部に行くより、隣県の大亀に出て行く方が近い。
「そうなんですね、藤本君の代わりに厨房入りましょうか? 準備ぐらいなら私もできますから」
「ありがとう、そうしてくれると助かるわ」
河村さんにぺこりと頭を下げて、私は厨房に向かった。