聴かせて、天辺の青
英司に対する未練なんてないけれど、私の頭の中には憶測ばかりが巡る。気づかないふりをしている胸の奥に、小さな不安の芽が覗いてきた。
もう小花ちゃんが弾いてるピアノの音なんて聴こえない。
おばちゃんが電話を切って、首を傾げた。すっきりしない顔をしているのが気に掛かるけど、尋ねていいものか。
「お母さん? 英司どうしたの?」
私が尋ねたかったことを紗弓ちゃんが尋ねてくれる。
「うん、連休に帰ってくるって、それだけなんだけどね」
「ふうん、仕事が忙しいから帰らないって言ってたのにどうしたの?」
「さあ……、仕事が落ち着いたのかもしれないね。こんな時間にかけてこなくてもいいのに」
「毎日帰りが遅いからじゃない? 遅いとお母さん寝てるでしょ?」
「それもそうだけど、びっくりするじゃない……、何かあったのかと思ったわよ」
紗弓ちゃんとおばちゃんの話を聴きながら、壁に掛かったカレンダーを見上げた。まだ先だと思っていた連休は再来週に迫っている。
今さら英司と顔を合わせてもどうってことはないけど、やっぱり構えてしまうし心の準備も必要だ。
大きく息を吸いこんだら、ピアノの音が耳に響いてきた。