聴かせて、天辺の青


「何にも盗らないなら最初から強盗なんてやらなきゃいいのに、なあ? 渋滞まで起こして、ホントに迷惑な奴だよ」


ぶつぶつ言いながら、海斗は残りの配送箱を取りに戻って行く。私も後に続いた。


「海斗、かなりイライラしてたみたいね」

「ああ、かなりね」

「弟さん、帰ってきてたんだね。当分こっちに居るの?」


海斗の弟はひとつ年下で、東京で働いている。英司と同じように進学のため上京して、そのまま就職した。


「いや、すぐに帰るらしい。東京の連れが大亀を観光したいから、案内しに帰ってきたんだってさ。ついでに家に寄っただけで、そのまま東京に帰るって」

「ふうん、倉庫群とかある港の辺りだね」


大亀には大きな港があり、港を中心に古い倉庫群が建ち並んでいる。大亀に来る人は必ず立ち寄る観光地だ。


『帰る』という意味は、自分生まれ育った家に帰ることだと思う。


それなのに、英司や海斗の弟の場合は意味が違ってる。今住んでいる東京の家を自分の本当の家と思ってるみたいに言う。


もし今度、二人が私の前で東京に『帰る』って言ったら、『ここがアンタたちの家でしょう』と言ってやろうかしら。


そういえば、今朝の彼も東京から来たって言ってたかも……


海棠って名乗った彼の生意気な言動まで思い出されて、無性に腹が立ってくる。


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