聴かせて、天辺の青
「うん、だから……行かないでよ、どこにも行かないで」
思いがけず、ぽろりと零れ落ちてしまった言葉。慌てて拾い上げようとしたけど既に遅く、彼の耳に届いてしまっていた。
もう一度、彼が微笑んでくれる。
「行かない、俺はここに居るよ」
彼は言い聞かせるように、ゆっくりとはっきりとした口調で言ってくれた。たっぷりと優しさを込めた手で頭を撫でながら。
きっと、もう大丈夫。
私は彼のことを信じていられる。
あんなにも彼のことを苦手だと思っていたことが嘘のよう。
「おばちゃんによろしく。後で私からも連絡するって言っておいてね」
「わかった、言っておくよ。落ち着いたら会いに行ってもいいか?」
何気に言ったつもりだったのかもしれないけど、ドキッとしてしまう。私の家に会いに来るのかと思ってしまって。
「うん、来てもいいけど……、その前に私が行くよ」
「その方が助かるけど、絶対に無理するなよ」
「わかってるよ、気をつけて帰ってね」
「ああ、ありがとう」
頬にキスを落として、彼は帰っていった。急に寂しさが込み上げるけど怖くはない。
やっと彼と通じ合えて、距離が縮まったんだから。