聴かせて、天辺の青


「もう、いいの。変な人には相手にならないに限るんだから」


振り切るように、うんと配送箱を抱えて立ち上がる。


「嫌なことがあるなら、我慢しないで吐き出してしまえよ。俺でよかったら、いつでも聞くからさ。聞くことしかできないけど」


進み出そうとした隣で、海斗も配送箱を持ち上げた。見上げたら、にこっと笑う。


いつか、どこかで聞いたことのある言葉。何年か前に、同じ言葉を海斗の口から聞いた。


「行くぞ、これ運んだら終わりだ」


記憶を遡りそうになる私を引っ張るように、海斗がずんずん歩き出す。


おかげで、再び傷口は開かずに済んだのだけど。


配送箱を置くと同時に、店舗内のスピーカーから歌が流れ出した。


懐かしい歌。
今から8年ぐらい前だったかな……


私が高校三年生の7月になったばかり、ちょうど英司と付き合い始めた頃によく流れていた歌だ。


明るくてノリの良い恋の歌。


歌ってたのは誰だっけ?
確か、男性二人だったはず。


名前が……
出てこない。


思い出せそうで思い出せない。
胸の中から浮かび上がってくる感覚はあるのに、見えそうになったら弾けて消えていく。まるでシャボン玉みたいに。


この歌、好きだったのに。



< 32 / 437 >

この作品をシェア

pagetop