聴かせて、天辺の青
町を離れたことのない私には、一人暮らしなんて不安でしかなかった。決心するのに、どれほどの勇気が必要だったことか。
きっと、英司も同じだったのだろう。
なかなか志望校が絞れない様子で、聞いても笑ってごまかすばかり。
夏休みの迫る7月の初め、学校の帰り道にある海沿いの運動公園で、英司と私は近くのスーパーで買ったお菓子を広げて休憩していた。
毎日ではないけど、たまにこうしてお菓子を食べながら、一通り話しをしてから帰るのが楽しみになっていた。話すといっても、学校であったことなどの話ばかりで大した内容ではない。
お菓子を食べる手を止めて、英司が言った。今まで見たことないような、真剣だけど照れ臭そうな顔をして。
「なあ、瑞香……俺たち、ちゃんと付き合わない?」
予想だにしなかった言葉。
傍に立て掛けていた自転車が、絶妙なタイミングでぐらりと傾いてきた。
英司とは小学生の頃からの幼馴染み、恋愛感情なんてなかったと言ったら嘘だ。
意識したら、言い出したら、すべてが崩れてしまいそうで。何もかもが終わってしまいそうで言えなかった言葉。
答えられずに俯いた私の手を取り、ぎゅっと握り締める。