聴かせて、天辺の青
ぎゅっと握り締めてくれた手から、英司の温もりがじんと染みてくる。
「こんな大事な時期に何を言い出すのかと思うかもしれないけど、俺は本気だから」
正直、本当に嬉しい。
嬉しいけど、素直に舞い上がることはできない。そんな風に、改めて言われると身構えてしまって。
「ありがとう」
と答えるのが精一杯。
何故?
胸がざわめいてる。
「俺さ、志望校決めたんだ。東京の大学受けるよ、だけど中途半端な気持ちのままで行きたくないから」
『東京』という言葉だけが、いつまでも耳の中で残響して止まない。
やっと、胸騒ぎの訳がわかった。
ここから東京までは、電車で約5時間は掛かる。あまりにも遠過ぎる。
隣県の中心部にも大学はたくさんある。レベルだって高い大学から低い大学まで揃っているから、その中から選べばいいのでは?
「どうして、東京? 東京まで行かなくても……隣県にも大学はいくらでもあるじゃない」
浮かんだ疑問をそのままぶつけた。
「母さんと同じこと言うんだな」
英司がふと笑う。
「だって、東京は遠過ぎるよ。何かあっても、すぐに帰って来れるような距離じゃないんだよ?」
それなのに付き合おうなんて、どうして言えるの?