聴かせて、天辺の青
英司は本気で、ここを離れようと思っているんじゃない。一時的に東京の大学に行くつもりだけど、必ずここに戻るつもりなんだ。
込み上げてくる安心感が、さっきまでの苛立ちを消していく。
「東京に行ったら、言えなくなるかもしれないと思ったから、今のうちに言っておきたかったんだ」
と言って、英司は恥ずかしそうな顔で振り向いた。
こっち向かないでよ、
私だって恥ずかしいんだから。
ムキになってた自分が、何だかバカみたいで。
「何よ、そんな言い方……」
ぼそっと零して顔を伏せた。
顔が赤くなってるのを、英司に見られたくない。
「俺が東京に行ってる間に、誰にも盗られないように、瑞香を俺のモノにしておきたい。俺じゃ、ダメか?」
目の前に現れた大きな手が、私の頬を優しく包み込む。
手のひらの感触を確かめる間もなく、ぐいと引き寄せられて間近に迫る英司の顔。怯んだ私の肩に、英司のもう片方の手が圧し掛かった。
唇に柔らかな感触。
慌てて目を閉じた。
すべての音が消えて、自分がここではない何処かへ迷い込んだような不思議な気分。
高鳴る胸の鼓動と潮の香りだけが、私を繋ぎ止めていた。