聴かせて、天辺の青
◇ 動き出す今
海斗と河村さん、海棠さんと自分。
それぞれを重ねて、期待すべき未来を想像しながら自転車を走らせる。私の前を走る海棠さんの背中が、今朝出勤する時に見た背中よりも大きく感じられるのは気のせいではないはず。
ほんの数時間、数分の時を重ねるごとに彼と私との距離は確実に縮まっている。通じ合えるようになった気持ちは、さらに寄り添って深みを増していく。
今はもう、ここに来た頃の彼ではない。
私たちにとって、恐れるものは何にもないと確信することができる。
宿に戻った私たちを迎えてくれたおばちゃんは、なぜか神妙な顔をしていた。
「おばちゃん、調子悪いの?」
てっきり体調が良くないものと思ったけれど、おばちゃんは首を振る。口を結んで俯き気味の顔は、どう見ても何か良くないことを抱えている様子。
「何かあった?」
顔を覗き込んでようやく、おばちゃんがためらいがちに口を開いた。
「瑞香ちゃんたちが帰ってくる一時間ぐらい前に女の人が来たの、海棠さんを尋ねてきたみたいで、居ないって答えたら帰ったんだけどね」
「女の人が?」
「瑞香ちゃんよりもひと回りほど年上じゃないかな……、かっちりした服の綺麗な人だったよ、海棠さんのお姉さんかしら?」
おばちゃんの声を聞きながら、疑問が頭の中で渦巻いてる。