聴かせて、天辺の青
誰が? どうして?
こんなところまで尋ねてくるなんて、彼になんの用があるの?
毎日店に現れていた車の女性は、彼とは無関係だとわかったばかりだというのに。
幸い彼は二階の部屋に居て、私たちの会話は聴こえていない。降りてきたら話すべきだろうかと迷う振りをしながらも、絶対に話したくない気持ちが優ってる。
「誰なんだろうね……、その人、彼がここに居ることを知ってたの?」
「ええ、ここに居るってわかってる風に言われたから、居ませんとは答えられなくて……ごめんね」
「ううん、ごめん。どうして知ってたんだろう……」
つい口調が強くなって、おばちゃんを驚かせてしまったことを反省しつつも動揺を抑えることができない。そんなつもりはなくても悪い方へばかり考えてしまう。
「彼、携帯電話持ってないんでしょう? 田舎の御家族が連絡つかないからって、心配して尋ねてきたのかもしれないわね」
「そうかな……」
「また尋ねてくるかもしれないし、彼には黙っておくわね」
やんわりとしたおばちゃんの声を聞いても、たやすく安心することなんかできない。
もう来なければいいのに……
願うことしかできない自分の無力さが辛くて堪らなかった。