聴かせて、天辺の青
「麻美かあ……、アイツかもしれないなあ」
麻美の名前を口に出すと海斗も納得したらしい。ふうっと息を吐いて頷いた。海斗も高校の頃から麻美のことは知っている。
「でも違うかもしれない、ここにも彼に声掛けた人が居たし……」
「そうだな、どこからでも情報は漏れるかもしれないし、知ってる人が居ても不思議じゃないだろうな」
と言って、海斗は腕時計へと視線を落とした。
二人が店の外へ出て行ってから、もうずいぶん経っている。
二人の様子を見に行きたいと思う気持ちと、余計なことは何にも知りたくないという気持ちが混在していて気持ち悪い。
今まで会いに来た人をすべて否定して追い返していた彼が、どうして彼女にだけ反応が違うのか。これまではまともに話しさえしなかったのに、彼女だけは名前を呼んでまるで特別扱い。
できれば今回も同じように追い返してほしかった。たとえ彼女のことをよく知っているのだとしても。
適当にあしらって、早く戻ってきてほしい。
彼女とは何にもない、自分とは関係ないと全部否定してほしい。
安心して、と笑ってほしい。