聴かせて、天辺の青

いつしか押し寄せたお客さんの波に紛れるように、ひょっこりと海棠さんが戻ってきた。つんとした顔をして平静を装っているつもりだろうけど、困惑の色を隠し切れていない。



私も彼に合わせて何事もなかったように接するけれど無理。
ここではないどこかへ心が飛んで行ってしまったように、ぼんやりとした表情が見え隠れしている。彼の不自然な態度が気になってしまって、どうしても見逃すことができない。



「さっきの彼女はもう帰ったの?」



お客さんの波が引いて商品整理を始めた頃、思いきって彼に尋ねた。



何事もなかったように表面上は振舞っているけれど、実際はそんなことないに決まってる。彼が隠そうとしているものを、どうしても見逃すことができなくて。



「ああ、帰ったよ」



ちらっと私を見た彼の目は冷たい。
ひと言答えただけで、また商品整理を始めてしまう。もうこれ以上聞くなと言わんばかりの態度に、苛立ちが募るばかり。



彼のよそよそしい態度を見ていると、他人に戻ってしまったように感じられる。





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