聴かせて、天辺の青


ちょうど、あの頃の記憶と流れてくる歌が重なって胸をざわつかせる。


「なあ、瑞香?」


不意に呼び掛ける海斗の声が、私の意識を引き戻した。きゅうと締め付けられる感覚から解放されて、胸が軽くなる。


「え? なに?」

「これ、歌ってたの誰だったか覚えてる? この歌はすごく覚えてるのに誰が歌ってたのか、名前が全然出てこないんだけど」


両腕を組んで、海斗が首を傾げる。


「そう、私も思い出せないんだ……」


気付いたら、私も海斗と同じ格好をして考え込んでいた。考えているうちに、歌は終盤に向かってく。


「そう、私も。男の人二人のユニットだったのは覚えてるんだけど……」

「男二人……かぁ……全然違う名前ばかり出てくるんだけど?」

「たとえば?」

「狩人?」

「は? そんなわけないでしょう」

「だよな? 冗談だってば、いいか、わかんなくても」

「うん、いいよ、そのうち何気に思い出すよ」


いつしか、私たちは笑い飛ばしていた。


余韻を残しながら歌は終わり、胸の奥でほんのりと熱を帯びた思い出が笑い声とともに消えていく。


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