聴かせて、天辺の青
彼に後悔してほしくないから。
彼の顔を一目でも見たら、葛原さんは安心して元気になるかもしれない。元気になったら、また戻ってきてくれたらいい。
海棠さんが私を見つめている。
真っ暗な夜の海に沈んでいってしまいそうなほど切なげな目をゆらゆらと潤ませて、今にも零れ落ちそうな言葉を懸命に堪えている。言い出せないのは、きっと答えは決まっているから。
「お願い、行ってあげて。海棠さんの顔を見たら元気になるはずだから、ね」
思いきり口角を上げて、声のトーンも上げた。
通り抜けていく頼りない風が彼の強張っていた表情をゆっくりと解していく。
「瑞香……、ありがとう」
「うん、葛原さんにちゃんと謝ってきてよ、心配してくれてたんだから」
「きっと、必ず帰ってくるから、少しの間だけ待ってて欲しい」
「待ってるよ」
広げた腕に包まれながら、彼が私の言葉を待っていたのだと確信した。決して望んで帰りたかったわけではないけれど、葛原さんに会いに帰りたかったんだ。
私は彼を引き止めてはいけない。
海棠さんのしたいように、行きたいところへ行ってもらえるように。