聴かせて、天辺の青
海沿いの歩道を海棠さんと並んで、自転車を押しながら歩き出す。いつもより早めに出かけたから、まだ勤務開始まで時間はある。
海棠さんはどうだろう?
「電車の時間は大丈夫?」
「全然、いつでも出かけられるし急いでないから」
「東京まで五時間ぐらい……だよね? あまり遅くならないうちに着かないと泊るところに困るでしょう?」
自分でもおかしいと気づくぐらい、早口で問い掛けてしまっていた。口に出してしまってから恥ずかしいと思っても、もうどうしようもない。
海棠さんは東京を離れる時に、借りていたアパートも引き払ってきたと話していた。何にも残してきていないというのに今夜泊るところはあるのだろうか、などと余計なことばかり心配になってくる。
「ありがとう、彼女が用意するって言ってくれてるから心配ないよ」
私と対照的に、彼はゆっくりとした口調。たぶん、わざとそんな風に話しているのだと思う。
道の駅が見えてきた。
一歩ずつ確かめるように踏み締める振動が胸の奥へと響いてくる。近づく別れへの心の準備が追いつかなくて苦しくなるばかり。
だから、いつも通り振舞いたかったのに。
『さよなら』なんて改まって言ったら、きっと耐えられなくなる。