聴かせて、天辺の青

「瑞香ちゃん、またな」



和田さんたちはいつも通り別れを告げて、地元へ帰って行った。ちょっとそこまで出かけて、すぐに帰ってくるような軽い挨拶だから寂しいなんて思わない。



おばちゃんと二人で、ゆったりと部屋の片付けを始める。



「あ、また忘れ物してる……」



おばちゃんが押入れから取り上げたのは靴下。綺麗に洗った後、ひとつにくっつけて丸まった状態で押入れの中に転がっていたらしい。



「有田さんは毎回何か置いて帰るよね、わざと置いてるんじゃないかって思うよ」

「ほんとね、でも宝探しじゃないんだから……」



と笑いながら、おばちゃんが押入れや金庫を覗く。何も出てこないとは思うけれど、もしかすると何か出てくるかもしれないとほんの少し期待しながら。



もしかすると、海棠さんも何か置いて行ってるんじゃないか。



すぐに帰ってくるかもしれないと思っているから、彼の部屋はまだ片付けきってはいない。彼もすべての荷物を持って行かず、いくらかの荷物は置いたままにしてある。服や歯ブラシなどの日用品とか、金庫も鍵をかけたまま。
それでも毎日の掃除は欠かさない。



いつ帰ってきてもいいように、綺麗な状態を保っておきたいから。





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