聴かせて、天辺の青
耳に聴こえてくる穏やかな波の音と、吹き抜ける風に紛れた潮の香りへと意識を飛ばしていく。時々響いてくる鳥の声さえも波へと紛れて、遠く離れた国道を走る車の音がと消え去ってていくように感じられる。
ぴたりと風が止んだことに気づいて、そっと目を開けた。いつのまにか胸のざわめきも収まっている。
もう一度深呼吸。
右手の名刺に書かれた携帯電話の番号を確かめながら発信する。
再び胸がざわめき始める間もなく、繋がった電話の向こうから聴き覚えのある声が飛び込んでくる。
「はい、葛原です」
里緒さんの怪訝な声は、見たことない電話番号からの着信に警戒しているのだろう。かと言って私の声を聴いても里緒さんから警戒心が消えることはないはず。
私のことなんて何にも知らないのだろうから。
「吉野瑞香と言います、海棠さんが東京に帰るまで一緒に仕事をしていました、海棠さんに連絡を取りたいのですが、連絡先を教えて頂けませんか?」
電話しようと決めてから、里緒さんに何と言えばわかってもらえるのかと考え続けていた。考え続けていたというのに結局言葉はまとまらないまま、頭の中に浮かんだ言葉をただ並べただけになってしまった。