聴かせて、天辺の青
機敏で無駄のないおばちゃんの動きに圧倒されて、私はただ立ち竦んで見つめるばかり。
熱を測っている間にタオルと着替えを持ってきて、汗ばんだ体をタオルで拭いて手早く着替えさせる。その間、もちろん私は背中を向けていた。
着替えが終わると、おでこと脇に冷却ジェルシートを貼り付けて布団を被せる。
まるで自分の子供を扱うかのようなおばちゃんの姿を見ていると、何だか胸がぞわぞわしてくる。
昔、よく似た光景を見たことがある。英司が熱を出した時、おばちゃんは今みたいにてきぱきと動いていた。
大きな体の英司が情けない顔をして、布団で丸くなっている姿。あの頃の記憶が、ゆっくりと顔を覗かせる。
すると、
「海棠さん、聞こえてる? すぐに熱冷まし持ってくるからね。薬飲む前に何か少しだけでもお腹に入れた方がいいから、お粥作ってくるから」
と言って、おばちゃんが布団から顔を出す彼に呼び掛ける。
薄らと開いた目は、ぼんやりと空を捉えるばかりで見えているのかいないのか……と思っていたら、「はい」とか細い声で彼が頷いたように見えた。
懐かしい記憶が消えていく。
思わず引き止めようと伸ばした手を、慌てて抑えた。