聴かせて、天辺の青
(2) やさしい人たち

◇とりあえずの決意




翌朝、いつもより早く家を出た。


もちろん、まだ暗いうちに。私の家族はまだ寝ているから、起こさないようにこっそりと。


家族は私がおばちゃんの宿の手伝いをしていることは知っているし、理解してくれている。家は離れているけれど、小学生の頃からの付き合いなのだから。


私の父は町役場に勤めていて、母は専業主婦。2歳下の妹は隣県に進学後、そのまま就職して帰ってこない。だけど長期休暇毎に帰って来ては、食材などをたっぷり持って戻っていく。ちゃっかり者の妹だ。


実は私と妹は同じ大学を卒業して、会社は違うけど同じ隣県で就職した。私は就職して一年で辞めて帰ってきたけど、妹は頑張って働いているらしい。


妹は隣県の町が好きだという。寺社や町並み、すべてが洗練されていると。


確かに有名な都市のひとつだから国内外問わず観光客も多く、誰もが一度は訪れたい憧れの都市だ。


私も進学するまでは妹と同じように憧れていたし、在学中も町の雰囲気にどっぷり浸って優越さえ感じていた。


それは就職するまでのこと。


就職してからは、町の景色に目を向ける余裕なんてなかった。町どころか、次第に周りが見えなくなっていった。


もし他の会社に就職していたら、まだ今もあの町に居たかもしれない。この町に帰ってくることなく。


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