聴かせて、天辺の青
◇歩み寄る勇気
夜明け前、自転車を停めて見上げた窓に電気は灯っていない。ほっとして勝手口へと向かう。
勝手口の扉の横の小さな窓からは、灯りが漏れて換気扇が忙しく回っている。
換気扇から追い出されたいい匂いが、朝食前の体に染み込んでくる。
勝手口の扉を開けたら、彼が居た。
おばちゃんの隣に立って、何か楽しげに話していた様子。
私に気づいて緩んでいた表情を強張らせ、ふいっと目を逸らした。
素早い動き。
気に入らない態度。
「おはよう、瑞香ちゃん」
おばちゃんがにこやかに迎えてくれたから、辛うじて気持ちが持ち堪えている。
「おばちゃん、おはよう」
いつものように、笑顔で返した。
どうして起きてるの?
今にも口から零れそうな言葉を慌てて抑えて、平静を装う。
だけど、本当は嫌な予感はしていた。
もしかしたら彼は起きているかもしれない、と浮かんでいた予想をかき消しながら来たんだ。
まさか本当に起きて、おばちゃんの傍に居るなんて思わなかった。
おばちゃんの前だから言わないけど、『寝ててくれたらよかったのに』というのが実は本心。