天使な悪魔
「僕は泪(ルイ)。君は?」


「七瀬っていいます。」


香ばしいクロワッサンの香り。グラスに入ったジュースに目を注ぎながら緊張感を解す。


まさかこんな展開になるなんて。


私は遠慮したのだけれど彼の提案でお詫びの奢りも兼ねてランチをすることになってしまった。


やっぱり軽いよね…知らない人との食事なんて。


彼は年下だと思ってたけど、話してみると落ち着きがあるし年上なのかもしれない。


「あの…失礼ですがおいくつなんですか?」


沈黙を何とか破ろうとしてはみたものの――…


泪さんは紅茶の入ったカップを置く。


「幾つになるんだろう…長い年月を生きて来たからね…」


…やっぱり年齢を聞くのはまずかったかな?私は慌てて話題を変えた。


「昨日お会いした場所は泪さんの家なんですか?」


あの白い建物に彼は住んでいるのだろうか――…?


泪さんはまたくすくすと笑い出した。


「確かにそう思われても不思議は無いね。でも、住んでるのはあの場所じゃない。」


目を細めて笑う姿、仕種が何処となく彼と重なる…





鶫さんと――



「てっきりあの建物がご自宅とばかり…。」


ストローに触れる。泪さんは喫煙席を選んだけど、私が吸わないからなのかな?

鶫さんも煙草吸わない人だった。何思い出してるんだろう。泪さんに鶫さん重ねるなんて。


確かにこんな風に2人きりで食事してみたかったけれど。
< 12 / 38 >

この作品をシェア

pagetop