天使な悪魔
「七瀬ちゃん?」


振り向いた先に小桃ちゃんが立っていた。いつもの少女らしい雰囲気とは違い、濃い目のメイクで大人びて見える。


「バイトはどうしたの?皆、心配してたよ。」


「それがね・・・実は困ったことになっちゃって。友達にも話せないの。」


泣きそうになるのを精一杯堪えながら明るく振舞っているみたいだった。


「良かったら、話聞こうか?」


「本当に・・・良いの?」





古ぼけた小さなビル。中からは物音一つしない。


エレベーターが不気味な音をたてて上昇する。


扉が開くと同時に小桃ちゃんは言った。



「七瀬ちゃんは優しいね。」




鶫さんも言ってたその台詞――・・・


嬉しい言葉なのに不安感が飛び交う。




「このビル、入口には店の看板があったのに。」


あるはずの喫茶店は何処にも見当たらない。


「実はこの中なんだよ。」


小桃ちゃんに手を引かれ、案内されたのは――


まるでマンションの一室のような・・・




ガチャン!




ドアが閉められる。
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