天使な悪魔
鳩の鳴き声。眩しい木漏れ日――


鶫さんからのお誘い、夢じゃなければ良いって思ったけど。昨日の出来事全て、夢であって欲しかった。


相手が小桃ちゃんじゃ勝ち目なんかないどころか、少なくとも友達以上の関係だよね、あの雰囲気は。


一日の始まりは昨日よりも憂鬱だった。お気に入りの髪留めは壊れてしまうし、朝から見知らぬ銀髪の男の子に嫌味を言われるし。不吉な予兆の表れだったのかな。


古ぼけた柵の先にある枯れた木々が今日は青々と生い茂って見える。新鮮な緑の香り。



「昨日も通ったよね?」



頭上から響く声に顔を上げる。通るのを避けようと思ってたけど、そんなことすっかり忘れてた。


柵の上に座った“彼”の姿を見るまでは――



視線がぶつかるなり彼は壁から飛び降りると、ゆっくりとこちらに近付いて来る。



また何か言われるかな・・・。不安が過った。



「これ、落としたの君だよね?」



割れたピンクのリボンの片割れを差し出す。



「はい・・・・・・。」



庭に落としちゃったんだ・・・。「こんなモノ落として行くな、目障り。」だのまた言われるのかな?


解かれた銀の髪、黒いベレー帽。白いブラウスにスキニーな黒のズボンに黒のブーツ。


着こなしもルックスもまるでモデルの様。



「やっぱりそっか。」


全く同じタイプの新品のピンクのリボンが差し出される。


「ごめんね。直ぐにちゃんと謝らないで。同じのが見付かって良かった。」


彼は微かに微笑んだ。


まさか、これ渡すために待ってたの?


「そんな、気を遣わないで下さい。勝手に入ってしまったのは私の方ですし・・・。」


「謝らなきゃいけないのは僕の方だから。それに――――」



穏やかな口調。温和な雰囲気。昨日の刺々しい印象はどこにも無い。



「警告しておく。今後、僕と接触してはいけない。」



「えっ・・・・・・?」





灰色の片眼が真っ直ぐにこちらを捉えている。



木々がざわめき、彼は踵を返し逆方向に歩いて行った。
















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