バーチャルウォーズ
雪美が興味本位で言った言葉に、咲は冷たく声を荒げた。


「手っ取り速く稼げたら幸せだっていうのか!」


「えっ?私はべつに・・・。街を歩いてて本物のスカウトマンに声をかけられる現場なんて初めて遭遇したものだから・・・。

咲がそういうチャラチャラしたのが嫌だったら断ればいいだけだと思うし、実際断ったじゃない。」


「スカウトマンの言うとおりに契約して仕事を始めたら、君の家に居座らなくてもひとりでやっていけるだろうね。」


「ごめんなさい、咲を邪魔にしてるんじゃないの。
みんながこっちを見てるんだもん。

咲はきっとかっこいいなって思われて、そこから私に視線が向けられてジャマって感じでひしひしとね・・・伝わってきちゃった。

しょうがないよね、私の方が見た目がみすぼらしいもの。」



「兄貴がね、ホストやってた・・・。今の仕事の見習いする前だけど。」


「そ、そうだったの。」


「酒が強くもないのに、飲まされてね。危うく急性アルコール中毒で死にかけたことがあるんだ。

それに、人気商売って誰かに優しくすれば、嫉妬に狂った誰かがひどいことをする。
生きていくだけでいっぱいなのに、予想外のことをされたらもう・・・。」



「どうして私に教えてくれるの?嫌な話でしょう?」



「わからない・・・。ただ、手っ取り速くとか君には言ってほしくなかった。
君のご両親や君を見てると、いろんなことに手間をかけててさ、手っ取り速くってところからかけ離れた人たちでいいなと思った。

小奇麗っていうのかな、きちんとしてるっていうのかな・・・贅沢でもなくみすぼらしくもなく。
そういうのっていいなって思ったから、買い物の言葉に甘えようと思った。」


「きちんとしてるのかなぁ・・・。まぁ小さい頃から、アイロンをかけてきれいになる服装はアイロンかけるのがママの方針だったなぁ。

袖がほころんだりしてたらきちんと修理をして。
新しいのがほしいって言っても、けっこう待たされた気がする。

それもうちがそんなに裕福じゃなかったからだけどね。」


「うちのばあちゃんもアパート経営なんてやってたけど、ずっとボロいままだった。
壊れたところを修理して、破れたところを繕って・・・。

雪美と金銭的価値観は似てるんだろうね。
ばあちゃんがおじさんの若い時を支えたから今の俺が存在してるし。

さて・・・けっこう買ってもらったし、そろそろ帰るとするか。」


「えっーーー!何か食べてから帰るんじゃなかったの。」


「おばさんが肉用意してるって言ってたし。」


「もう・・・ママったら余計なことを。」


「はいはい、文句が出るのは腹が減ってるということだ。
帰るとこはいっしょなんだから、離れたくない~~~とかダダこねられなくて助かるな。あははは」


「わ、私はべつに・・・そんなこと!」


「俺はそう思ってる。」


「えっ!?」
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