バーチャルウォーズ
背の高い新任の教師っぽい男は手で「シッ!」と雪美が声をあげるのを制すると小さな声で上からつぶやいた。
「この前は気付かなくてごめんな。・・・雪美がすっかりきれいになっててびっくりだ。」
「て・・・る?」
「おお~。けどここは学校だから・・・」
「せんせい?」
「うんうん・・・。緊張するけど挨拶から仕事の始まりだ。
放課後は生徒会室にいるのか?」
「ええ、今日はそのつもり・・・です。」
「了解。これからよろしくな~」
2年の国語担当教諭として井坂輝人が挨拶をした。
彼は雪美より10才年上で、雪美が前の前に住んでいたところによく出入りしいていた裏に家があって住んでいた。
雪美が引っ越した後も手紙をくれたりしていたが、5年前あたりから彼も別のところに住んでいたようで、音信不通の日々が続いていたのだ。
先日道を尋ねられたときと同様、彼の挨拶は見かけの重厚さと違ってとても軽い口調な挨拶で簡単なものだったので、ベテラン教師陣からにはどうやらあまりいい印象は持たれなかったようであった。
そして、挨拶後も2年のクラスの前に立ちながら雪美の方をときどき笑顔でみやる姿に咲も少し面白くない気分になった。
放課後、生徒会室でクラブ活動や生徒会主催の活動をまとめた冊子を配布する準備を雪美たち1年はやっていた。
そこへ、風紀委員長の松永竜輝がやってきて声をかけた。
「そろそろ配布準備は終わりそうかな。
1年委員と今日着任した井坂先生は俺といっしょに学校内を歩くからな。
もし、どうしても早く帰らないといけない人は今言ってくれ。」
すると雪美のクラスの高井がテニス部顧問のところにいく理由で残れないと言いだし、他の1年男子もそれぞれに都合が悪い理由を言って、結局校内を歩くのは風紀委員長の松永と雪美をあわせた1年女子だけになった。
「はぁ・・・やっぱりな。」
「松永先輩、やっぱりって?」
雪美が松永に質問すると、松永は苦笑いを浮かべて
「女子はイケメンな社会人に興味があるってことだよ。」
「はぁ・・・なるほど。たしかに・・・。」
「あ、高井のやつ、そそくさと行っちまったんだよなぁ。
井坂先生ってテニス部のコーチもやるらしいっていうのを忘れたけど、まあいっか。」
「テニス部ですか・・・。」
「なに?浅岡・・・テニス部に入りたいとか言うの?
残念だが井坂先生は男子のコーチだからな。ククッ」
「私、べつにそんなつもりは・・・。」
「へぇ、朝は親しそうだったみたいだけど?」
「あ、それは・・・。」
「竜輝、男ひとりだけじゃ困るだろうから、俺も出るわ。」
雪美の前を横切りながら菅野咲が松永に声をかけた。
「あれ、書き物はいいのか?」
「すぐに仕上げなくていいし、全体の案内するのに会長がいた方がいいだろ。」
「だな・・・。案内は会長殿に任せて、浅岡と俺いっしょに歩くことにしようっと。」
「せ、先輩!!!」
「仲良く、金魚のフンしようぜ。」