バーチャルウォーズ
雪美は輝人に思わず問いただした。
「どういうことなんですか?なんで会長に謝ったんですか?」
輝人は雪美の様子に少し驚きながらも、静かに答えた。
「肘を痛めてた。そういう噂はきいていたんだけど・・・手術を受けて治療してるものだとばかり思ってたんで驚いたよ。」
「手術しなきゃいけないの?そんなに肘が・・・。
知らなかったわ。パパに相談しなきゃ。」
「なんで、パパに相談になるんだ?」
「だってそれは・・・。」
雪美はすぐにわかることだと思い、輝人に咲が同じ屋根の下に住んでいることを話した。
「なっ!なんだってーーーー!そ、それでこの前いっしょに帰っていたのか。
ほんとに油断のならない策士だな。あいつ・・・。」
輝人は歓迎会の翌日の仕事帰りには、雪美の家へやってきた。
「まぁ~~てるくん、いらっしゃい。
もともと大きなコだったけど、こんなに立派に育っちゃって。
でもおじさん臭くなくってよかったわ~あははは。」
「おばさん、まだそんな年じゃないですよ。
社会人としてはまだまだ若輩者です。
ところで・・・この家に菅野咲くんも住んでいるって話を雪美から聞いたんでびっくりしたんですけど。」
「ああ・・・。それは校長先生との極秘事項ってことで、黙っててね。
お父さんの恩人のお孫さんで息子さんで・・・いろいろ事情があるの。
でもとっても彼はいい子なので助かっちゃっててね。」
「そりゃ、彼は生徒会長まで務めている好青年らしいけれど、雪美にとってはよくありません!
血のつながりのない年頃の男女が同じ屋根の下に住んでるなんて・・・。
何かあってからじゃ、遅いんですよ。」
「何かって?」
「だから、肉体的に関係を・・・」
「もう、てるくんからそんな言葉をきくなんて思ってもいなかったわ。
このあいだの懇談のときにきいちゃったけど、女生徒からすごい人気らしいじゃない。
若い男の先生はよりどりみどりだって。
大人なんだから、責任はきちんととりなさいね。うふふ。」
「ぼ、僕をそんな男だと思っておられるんですか?
僕はあのとき!
おばさんたちが引っ越すときに宣言しましたよね。
嘘とかカッコよさで叫んだんじゃありませんから。
僕は本気で雪美を嫁にもらう気で雪美にお嫁に来て!と言ったし、雪美だって行くと返事をくれました。」
「うそ・・・。私覚えてない。」
輝人が声に振り返ると、雪美が震えて立っていた。
「ごめんなさい。私ぜんぜんそれ覚えてないです。
ママが『てるくん』って親しそうに話すのをきいていただけで、私の記憶にはてるくんが出てきたことがなくて・・・。
知っていたら、学校までの道をきかれたときに気付いてたし、しかも先生と生徒だし、私まさか自分がそんなふうにみられるなんて思ってなくて。」