バーチャルウォーズ
輝人は少しため息をついてから話を続けた。

「僕が大学に入学した翌日に両親が交通事故で亡くなりましてね・・・。
大学を中退してお金を稼ごうかと思っていたんです。

でも、姉が大学用のお金は親が残してくれてるからって親の残したお金を全部学費にしてくれて・・・先月嫁にいくときも自分はお金のかからない地味婚をしたんです。


ほんとに経費をめいっぱいケチった結婚式だったけれど、姉はとても幸せに暮らしています。
相手の人は僕と同じ高校教師なんですけど、真面目でいい人です。

僕も姉のようにあったかい家庭を持ちたいと思っていたら、おじさんに会って・・・これはもう神の導きに違いないって思って。」



「まぁ・・・。でも雪美は生徒でまだ何にもできない子ちゃんよ。」



「もちろん、結婚云々は卒業してからってことでいいんです。
いきなり、ここで本人の前で言うのも何ですけど・・・僕は久しぶりに雪美に会って結婚するのはこの娘だって思いました。

ちっちゃなお姫様がこんなにきれいでしっかりした女性になっていたのがうれしくて。
お願いです、結婚前提におつきあいをすることを許可してください。」



「あ、あの・・・私は困ります。ほ、ほんとに覚えてないんですもん。
それに、そんな結婚なんて・・・まだ。
入学したてだし、生徒会もまだわかんなくて・・・松永先輩がっしりしててカッコいいな~とか思う程度だし・・・。」


「えっ、雪美は風紀の松永が好きなのか?
菅野じゃなくて?」


「あ・・・私って気はやさしくて力持ち!っぽい人希望なので・・・。
菅野先輩はその・・・お兄ちゃんっぽい存在っていうか。

困ったときに頼りにするみたいな・・・。」



「そ、それでもだ・・・彼は進学希望でまだここに居るんでしょう?
やっぱり危険だ。
来年卒業しても4年間は・・・。」


「では、君もうちに住んだらどうかね?」



「そう、僕も住んでしまったらいいですよね・・・って・・・おじさん!」


輝人が話している間に雪美の父の公男も帰宅していた。
そして、公男の提案は輝人も現在は独身生活をしているのなら、いっしょに同居しようということだった。


「ええっ!先生までうちに・・・!?」



「雪美、自宅で先生はやめよう。咲くんみたいに輝人とかてるって呼んでほしいな。」



「パパ!そんなまたぁーーー!私が今日待ってたのは、咲の肘の手術のことを話したかったのに。」



すると、公男は後で咲の部屋で話をするといい、風呂へ行ってしまった。
結衣子は「ということだから・・・」と輝人に引っ越してくるように言い切ったのだった。


「はあ・・・・!」


輝人は上機嫌で近日引っ越してくると言って帰ってしまい、雪美はげっそりしながら自室へと向かった。


部屋の前に咲が立っていて、きびしい顔をしていた。


「肘の手術なんていらないから。もうテニスはしないし、しなければ不自由はしていない。」


雪美にすごんでいるとしか思えない行動と声だったが、雪美はさらっと言いだした。


「私は見てみたいです。
咲と高井くんが打ち合ってるところ・・・。
じゃ、またあとで、パパも交えて話しようね。」


「えっ・・・。」
< 23 / 80 >

この作品をシェア

pagetop