バーチャルウォーズ
2人が帰宅すると、雪美はわざと咲の肘を軽くつかんだ。
「うっ・・いっ!」
「とても痛むんでしょ?
すぐ、湿布するから、椅子に座ってて。」
咲は雪美に手当してもらうとフゥと息を吐き出した。
「ありがと。助かったよ・・・。」
「輝人さん手加減なしでガンガン打ちまくってひどいですよね。
おかげでこんな・・・痛いのに。」
「いや、輝さんは俺のために悪者になってくれたんだよ。
ああでもしないと、もっと腕がつらくなるところだった。
的確に足元を狙って、俺の腕に負担をかけないようにしてくれたんだ。」
「えっ・・・そうだったんだ。」
「すべてわかってた。頭で理解はしていたんだけどね・・・いざ打ち始めたらささっと負けるなんて嫌でさ。
なんとか粘って・・・と思ったんだけど、1球ラケットに当てたらとても重くてズシーンって骨にひびいてしまって、あとは力がだんだん入らなくなっていったよ。
それに、生け花で君を怒らせてしまったから、せめて俺ががんばることで、君が生け花に立ち向かえたら・・・とも思ってた。
でも結果がこんなに無様でさ。申し訳ない。」
「そ、そんなの・・・いいですよ。
無茶しないでくださいよ。
私・・・ちゃんとがんばれますから。
結果はよくないかもしれないけど、できる限りがんばろうって思いましたから。」
「それならよかった・・・。
同じ屋根の下に住んでいて、嫌われたくはないから。
よかった・・・。」
雪美は傷が痛むのにうっすらと笑顔を自分に向けてくれる咲を見て、ゲームの中で流輝の言葉を信じてよかったと思った。
(やっぱり理由があったんだ。なのに私・・・。)
「わざと知らん顔したり、怒り出したりしてごめんなさい!」
「きちんと説明しなかった方が悪いんだから気にしないで。
お互いさぁ・・・とにかく困ったことは話すようにしなきゃな。」
「う、うん・・・。」
「あれ・・・なんか歯切れが悪いね。
もしかして、まだ何か怒ってることあるとか?」
「ち、ちがいますよ!
えっと・・・先生には負けちゃったけど、高井くんと試合してたときの咲は健康的でかっこいいなと思って。
机に向かってるところの印象が強いからびっくりしちゃった。」
「えっ・・・。ガリ勉だと思ってたんだな。
じゃあ、肘が痛くなくなったら輝さんにリベンジ仕掛けるから、そのときは応援に来てくれよな。」
「うんうん。もちろん!」
雪美は思い切って咲と話してよかったと思った。
そして同時に流輝にゲームで会ったら、お礼を言おうと思った。