バーチャルウォーズ
(どうせ私は笑顔で食い気よ!)と言いたい気持ちと咲が本心をのぞかせてくれたうれしさで、雪美は言葉が口から出なかった。

何か言わないと!と咲の顔を見ると、うれしそうな笑顔で自分を見つめている。


(この家で咲のこんな顔見るのは初めてだよね・・・。)


「私ならいくらでもおいしいものは大歓迎だよ。
生きていくのに必死じゃないし、能天気だもん。」



「ぷっ・・・自分で言うなよ。
雪美は食ってばかりじゃなくて、お母さんから料理をおぼえなさいって言われてるだろ。

教えてやるから手伝え!」


「咲に教えてもらうのはやだ。お母さんにきくもん。」



「なんで俺からは嫌なんだよ!」



「だって・・・。」


「どうした?」


「こ、困る。・・・嫌なのは嫌。ごちそうさま。」


雪美はムースの入っていた器を流し台までそそくさと持っていき、そのまま自室まで走っていった。


「困るってなんだよ。・・・やっぱりここでは嫌われてるのかな。」


「そうじゃないわよ。うふふ。」


咲が振り向くと、雪美の母の結衣子が笑っていた。


「おばさん・・・ずっと見てたんですか。」


「途中からね。若いっていいわねぇ~ わりといい雰囲気だったからすぐに入っていくのもどうかと思ってたんだけど・・・。

咲クンと輝クン・・・どっちもずっと家族でいてほしいけど、うちには娘がひとりしかいないからつらいわぁ~~~。」


「おばさん?俺は大学入ったらここを出て行きますから。
大学の費用は奨学金と兄が出してくれるっていうし、寮に住んでバイトすれば大丈夫だから・・・」


「ダメよ!お父さんにきいたけど咲クンもうちのお父さんみたいに経営学勉強するんでしょ。

学校の先生だってあなたはとても優秀だから学べる機会があればあるほど伸びるって言ってたわ。

うちでしっかりとお勉強なさいよ。」


「でも・・・。それじゃ雪美が。」


「雪美のことは心配ないって。さっきだって、困るって言ったのは咲クンを異性として意識してるってだけなんだから!

もう咲クンかっこいいから~隣にでも立ったらドキンドキンしちゃってお皿を割りまくっちゃうかも~って思ったんじゃないかしら。あははは。

私だってどきどきしちゃうくらい、咲クンステキだもんね。」



「そ、そんなことは・・・。」


「でも、学校ではうちに住んでるってみんなに言ってないんでしょう?
言っちゃったらたくさんの女の子たちが我が家に抗議しにくるかもしれないって思うでしょう?」


「雪美と同居してるって騒がれるのがめんどくさいだけで・・・俺はべつに知られたからってやましいとこはありませんから。」


「いいのよ・・・やましいことしたって。咲クンなら許すわ。」



「なっ!おばさん・・・俺・・・宿題しますっ。
後片付けしなくてすみません。」



「あらあら・・・逃げちゃった。
ふふっ・・・いいコだわ。いいコすぎる。
もうちょっとハメを外したくらいでいいのに・・・。」
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