バーチャルウォーズ
翌朝、咲は雪美たち家族が朝食をとっているところで皆に謝罪をした。
「ご迷惑とご心配をおかけして、ほんとに申し訳ありませんでした。
今後はこのようなことのないようにしますので・・・。」
「まぁまぁ・・・私も昨夜遅くに竹井さんから謝罪の電話をもらって驚いたけど・・・君は生真面目過ぎると思っていたから、ある意味ちょっとホッとしてるとこもあるんだよ。」
「えっ?」
「竹井さんのお父さんともちょっと電話で話が盛り上がったんだけどね、我々が若かった頃には親に内緒で酒、たばこ・・・あときれいなお姉さんたちがたくさんいる店とかね、試してみたかったものだなんてね。
それに、お嬢さんが部屋にきてほしいという誘いを断る口実だったんだろ?
お金持ちのお嬢さんを家族の前で恥をかかせるのもかわいそうだと思ったみたいだし。」
「ええ。彼女の兄とは友人で真剣な付き合いをする気がなかったら、早めにさりげなくフッてくれって言われてたんですけど・・・言うタイミングがないまま・・・。」
「頭脳明晰、財閥の代表の娘に好かれてヤッタ!とは思わないのかね?
結婚すれば逆玉だよ?」
「僕はそんなのは嫌です!
早めに受験勉強してきたのも、おじさんみたいに自分で実力をつけて、将来的に自分の力で手に入れた会社を経営したいと思ってます。
生きている限り、学ぶことは多いと思うし、竹井みたいに手広くまでできないにせよ、たとえ個人商店でもいいから自分の可能性を試してみたいと思うんです。」
「そうか。まぁ私はお手本とは言い難いが・・・」
「どうしてですか?ご家族もちゃんと養っておられるし、こんな立派な家だって。」
「お父さんと結婚した頃ってけっこう慎ましやかな生活をしてたのよ。
輝クンのご家族と交流があったのもその頃かな。
まだまだ会社の収益にはムラがあってね、輝クンのお母さんから夕飯のおかずをいただいたことも多かったの。」
「庶民とひとくくりにしてしまえば普通っぽいが、底辺に近い庶民だったねぇ。
男として、妻には苦労をかけてばかりでいまだに頭があがらんね。
うちのママは苦労を楽しんでいるかのようだってご近所の人から良く言われたもんだ。
けっこう救われたよ。」
「いいですね。家族で力をあわせて得る成功って。
僕にもそういう家庭を目指したいです。
でも・・・奥さんには苦労かけちゃうかな。」
「お兄さんの弓クンは立派にもう独立しているし、咲クンの目標がある程度決まっているなら、私たちはできる限りの協力はさせてもらうつもりでいるよ。
君のおばあさんには家族以上の世話になったからね。
私が実業家になるヒントというか、生きていく知恵をたくさん学ばせてもらった。
残念ながらこのとおり、私たちの子どもは雪美だけで息子がいないからね。
息子がいたらいろんなことを学ばせてやりたかったと思うんだよね。
だから遠慮しないで、やりたいことがあればどんどん言ってくれよ。
ただし、かなえてやれるかどうかはわからんけどな。あっはっは。」
「もういいかげんねぇ。パパは。」
「いや、輝人クンがね、雪美が高校を卒業したら結婚を申し込んでいいかと言われてしまってね・・・。」
「えぇっ!!!パパ、そんなっ」
「ま、まぁ・・・輝クンいつのまに。」
「彼も高校の教師としてがんばっているようだし、雪美のことを思って追いかけてきたのはわかっているからね。
親が絶対反対とはいえないんだが・・・うちはママとも政略結婚ではないんでね、お互いの気持ちは通じていてほしいと言ったよ。
つまり、雪美の気持ち次第ってことだ。
お互いが愛し合ってこれからがんばっていくんだって言いにきたらパパはさびしいけど、反対はできないんだよ。
なんて返事はしたんだがね・・・。」
「私はまだ結婚なんて、考えてないわ!
私だって、咲ほどしっかりした目標じゃないけど、社会でやってみたいことくらいあるもの。
いきなり卒業してお嫁さんなんて・・・無理だよ。」