バーチャルウォーズ
雪美は舞台にあがって咲の隣に立って挨拶した。
「会長のファンの皆さん、私なんかがここに立ってご挨拶するなんて・・・ほんとにどうもすみません。
でも、3年生は最後のお祭りでそのパートナーとして選ばれたのはうれしいです。
会長このあとよろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
大きな歓声と興味のあるカップルが見たいという反応があちこちでわきあがった。
夏祭りの出し物などの後片付けの間に、咲と雪美は浴衣に着替えていったのだが、そこでとうとう事件が起きた。
「う・・・そ。・・・そんな・・・ひどすぎる!」
教室のロッカーを開けた雪美は悲鳴をあげた。
その声を聞きつけ、咲と竹井が最初に駆けつけて愕然とする。
雪美のロッカーの中には先日、咲と買いにいった浴衣が粉々に近いほどに切り刻まれていて、そのうえからケチャップがたくさんふりかけられていた。
「どうしよう・・・。」
雪美は倒れそうになるのを、必死にこらえて体を震わせていた。
(泣かない・・・こんなことで泣かないよ。
私はすべて承知でおとりになったんだから。
ひどい目にあった女の子は他にいるんだから・・・泣けないよ。)
「雪美、誰かに浴衣を借りればいい。雪美なら同じくらいの体型の女の子は多いと思うし・・・ね。
俺は着ているものなんてぜんぜん気にしていないから。」
「でも・・・。最初に咲とのこと触れ回ったから、きっと誰も貸してはくれないわ。」
「クソッ・・・。」
すると、竹井遼は携帯電話で誰かと会話を始めた。
そして電話を切るなり、雪美に用件を伝える。
「あと10分もしないうちに俺の浴衣とおまえの浴衣をうちの使用人が持って来て着付けてくれる。
最高品質で注文したから、何も心配することはないからな。」
「あの・・・竹井先輩。そんなの・・・。勿体ないです。」
「好意は受け取れ。いや、これは罪滅ぼしだな。
妹がほんとに申し訳ない。
俺も本気であいつを叩きのめすからな。」
「でもこれじゃ証拠が・・・。」
「いや、あいつは執念深い。だから、俺の注文した浴衣を見て逆上するはずだ。
そのときが狙いだ。
そのかわり、おまえが危険にさらされる。
とにかく俺たちを信じて、堂々としているんだ。」
「はい。」
そして遼が言ったとおりとても高級で雪美にとても似合う水色と金魚模様の美しい浴衣が届いた。
「すごい、こんなすごいもの。それに帯のアクセサリーまで・・・。」
「プレゼントだ。楽しんで着てくれよ。」
「ありがとうございます。」