バーチャルウォーズ
翌日、兄の店の裏口にスノウとして約束した時間に少し遅れて咲は到着した。

弓はかなり驚いた表情をして、他に控えていた男が慌てて店の中にしらじらしく入っていったのを咲は確認して、


「雪美は来ないよ。昨日約束したスノウは俺だからね。」


「なんで、おまえ・・・」


「兄さんがちっちゃな雪美と知り合いだったことも知らなかったよ。

俺は知り合いだとか、付き合っているのを咎めようとは思わなかったんだ。

でも、兄さんはお金目的に雪美にしてはいけない仕打ちをしたよね。

おかげで彼女は大怪我をして、記憶まで・・・。」



「おまえがそんなこと言える身分じゃないだろ。
誰のおかげで高校へ行けてると思っているんだ。

そのうえ、大学も行く気なんだろう?
俺たちのばあちゃんはあの子の親父にいっぱい援助してやったんだ。
それを返してもらっても、あの子が食っていけないなんてことはない。」


「それならおじさん本人に相談してお金を貸してくださいってお願いする方法だってあるじゃないか。」


「いったん会社の社長にまでのぼったやつが、いくら昔に世話になったからってそこまでホイホイしてくれるわけないだろ。

おまえは奨学金ももらえる立場だから行き詰るなんてことはないんだろうけど、俺は下積みが長くて、やっと自分のオリジナルが1つ通用するかというところまでこぎつけても、俺の店じゃないから俺のところにまるまる金が入ってくるってわけじゃない。」


「そんなのあたりまえじゃないか。
逆に、通用しないときにお店の名前で兄さんも得したことだってあるはずだろ?」


「そんなもの・・・得なんてことあるか。
せめてオーナーの娘と付き合ったら跡継ぎ候補としてみてもらえるかと思ったが・・・それは実力主義とか言いやがって。」


「兄さんは職人なんだから実力つけたらいいじゃないか。」


「そんな簡単にホイホイ作品ができるわけないんだ!
何もわかってないくせに偉そうに言うな。

おまえは生徒会長だ、優等生だって浅岡家に転がり込んで、いい子を演じてれば思いのままだよな。

そのうえ、雪美も自分に引き付けるってか?
おぞましい弟だ。」


「違う!俺は、お金は社会人になったらおじさんにお返しするつもりだし、おじさんを尊敬してる。

雪美だって大好きだ。
兄さんが雪美を傷つけて利益を欲しがるなら俺は雪美を守る。

もう・・・兄さんと共犯の連中のやったことは発覚してしまってるんだよ。
頼むから雪美とご両親に謝罪して。」


「フン!俺はもっとあの子に言うことをきいてもらうさ。
雪美は俺のいいなりなんだからな。」


「もう、何を言っても無理だけどね・・・。
咲のおにいさん。
それと、咲は来年度からアメリカへ俺と行って留学することになった。
心配しなくても資金は俺の家から出る。
っていうか、俺ひとりで出せるさ。

あんたから独立するから心配はいらないよ。」


「なんだ、おまえは?」


「俺は竹井遼。咲の学友であり、指導者でもある。
おっと・・・さっきのお兄さんたちならもう俺のボディーガードが去るところにお連れしたから、待っても意味ないよ。」



「くっ。・・・・・じゃあ、これだったらどうだ?」


弓は咲の襟をつかんで、もう片方の手で果物ナイフを先の喉元に突き付けた。


「兄さん。そこまで・・・するなんて。」


咲がそう言った瞬間に、竹井は何かを破裂させ白い煙を発生させた。


「おわっ!なんだ・・・目が。」


煙が晴れたときには弓は気絶した状態で地面に横たわっていて、咲は声をあげた。

「兄さん、なんてバカなことを・・・。」


「咲、悪いけど、彼は法律で処罰してもらうよ。
君の真心は伝わらなかったんだ・・・。いいね。」


「ああ・・・。いろいろと迷惑をかけてすまない。
ありがとう。竹井。」



「そんなこといいから。それよりも雪美をみてあげろよ。
両親や先生から話をきいて心を痛めてると思うからさ。」
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