バーチャルウォーズ
記憶のもどった雪美は、輝人と結衣子から説明をきき、心を痛めていた。
「咲は?咲は責任感が強いから、きっと私に会いたくないでしょうね。」
「そんなことはないよ。そりゃ、実の兄が犯罪を犯してしまったんだから今はつらいと思うけど、自分の兄よりも君を守りたかったから動いたんだからね。
俺は雪美が咲のことを忘れてくれたら正直、うれしいよ。
こんなことがきっかけでもね。
けどね、男として教師としての俺は、咲の力になりたいと思うんだ。」
「輝人さん・・・。」
「輝クン、こっちにきて先生やってからグッと大人になったじゃないの。
ああ~ほんとに、輝クンや咲クンがいっしょに居てくれてママはうれしいわ。
いい息子に恵まれた気分よ~。ほんとうれしいわ。」
そして、結衣子と雪美は咲の帰りを待っていたがその日、咲は家にもどってこなかった。
咲は竹井の家にいた。
「彼女に会ってやらないのか?」
「なんていえばいいのか・・・。結局、兄さん、流輝もいないよって言いにくい。」
「じゃ、留学までここに住むか?
襲ってしまうかもしれないぞ。」
「おまえは、どうして・・・?アメリカではいっしょに住むと言っただろ。」
「俺は医者でもあるんでな。
おまえが雪美にきちんと何らかの意思表示してやるべきだと思ってる。
でなきゃ、今度はあの子が前に進めなくなる。
深層心理をいじくられて、おまえからも何もなかったことにされるなんて、おまえだって兄と変わらないヤツになってしまうぞ。
それでなくても、おまえが家を出たら雪美は泣くだろう。
どれだけ泣かせる気なんだ?
そんなことなら、かかわらなければよかったのに。」
「そうだな・・・。かかわらなきゃよかったのかも。」
「おい、生徒会長でございってヤツの言葉じゃないな。
今はカッコ悪くてもビッグになって日本にもどるんじゃなかったのか?
小さくても自分の会社をたちあげてがんばると言っていた男が女ひとりを切り捨てか?」
「わかったよ・・・。竹井・・・ほんとに何から何まですまない。」
翌日の夕方、咲は自分の部屋に入ると雪美が床に座り込んでいた。
「ただいま・・・。」
「よかった。もう帰ってこないんじゃないかって・・・。うっ」
「ごめん。兄さんのことも俺のことも・・・ほんとに申し訳ない。」
「お兄さんのことはともかく、咲は私を助けてくれたんだよ。
謝ることなんてないのに。
私がお礼を言わなきゃ。ありがとう。
私の記憶、私の体と心を守ってくれてありがとう。」
咲は思わず、雪美を抱きしめずにはいられなかった。
「記憶がもどらなかったら、俺は一生君の下僕でいいと思った。
いや、死んでしまった方がいいのかもしれないのに。」
「もどったんだから、気にしなくていいんだってば。
それに、今こうやって触れているのがうれしいよ。」
「雪美・・・。好きだ。
だから、しばらく会えないけど待っていて。」
「えっ!?ここから大学に行くんじゃないの?
お父さんの援助を受けてくれるんでしょ。」
「いや、気持ちだけもらうよ。
奨学金と竹井からの援助を受けることにしたんだ。
俺、おじさんを尊敬してるし、社長になりたい。
そして、雪美を迎えに来たい。」
「私はべつに社長でなくても・・・社長夫人になりたいとも思わないわ。
あ・・・ごめんなさい。
その顔ってもう決めちゃってるんだよね。
咲の意思が強いのはわかってる。
だけど、竹井先輩と一緒なんて怖くないの?」
「大丈夫だって。あいつはあっちではかなり忙しいヤツらしいから。
それにあっちは銃の所持もあるだろ。
変なしぐさしたら撃ち殺すって。」
「ええっ!!・・・もう、咲ったら。
でも、お休みのときはもどってきてほしいよ。」
「そうだね、兄さんのこともあるし、何日かはもどらないとね。」