バーチャルウォーズ
雪美は帰宅してから、父の公男にマークのことをきいて少し驚いたのだった。


「ティーワークのTって・・・竹井のTですってぇ?
それじゃ、マークは竹井先輩のところの社員さんなの?」



「うん、咲クンが竹井クンのところで世話になってて、もともと咲クンの学費はうちで負担したいと思っていたから声をかけさせてもらったんだ。

奨学金もあるし、円高効果でそんなに授業料はいらないかわりに、1名社員を修行させてほしいって言われてね。」


「しゅ、ぎょう?」



「ああ。でもね、マークはわざわざ修行がいるような社員ではないと思うんだよ。
言葉にも困らないし、日本のこともよく勉強している。
それで、本当のところを竹井さんに問い合わせたんだ。

するとね・・・彼は子どもの頃に生き別れたお母さんを捜しているんだそうだ。

彼が得た情報によると、20年前くらいにお母さんは日本にきて日本人と結婚したらしいんだが、連絡住所に行ってみると、住まいなんてなくて、更地になっていたそうなんだ。」



「お名前はなんていう人なの?」



「バーバラというらしいが、たぶん名前は変えてるだろうって。
マークと同じ青い目をしているが、髪も黒だし、捜すのは大変だろうね。」


「そっかぁ。お母さんを捜さなきゃいけないのに・・・言葉を教えてなんて頼んじゃいけなかったかも。」




高校2年になった雪美は生徒会からも離れ、クラブ活動もやめ、父親の会社の手伝いを積極的にやるようになった。

父からはもっと自分の時間を楽しんでいいと言われていたが、学校にいると咲のことを考えてしまってさびしくなるのが嫌だった。



そして、マークに英語を教わる話は父からの情報を知って、あらためて雪美は断ることにした。


「言葉をおぼえたいって言ったのにやめるの?」


「ごめんなさい。お父さんに・・・あ、社長命令でダメって怒られちゃったの。
当たり前だよね。マークはうちでお預かりした従業員で、私はいい加減な学生アルバイトだから。
労働しにきたのに、余計なことはさせられないって。当然だと思うわ。」



「じゃ、昼休みとか、お茶時間にでも少しずつ英語で話そう。」



「えっ・・・でも、それじゃマークのリフレッシュ時間が・・・つぶれちゃうわ。」



「大丈夫だって。レッスンって言っても僕にとっては地元の言葉だから、そっちの方が楽に決まってる。」



「あれ?マーク・・・ワタシじゃなくて一人称が僕になった?」


「あ、う、うん。先輩にきいた。
かわいい女の子と話すのに、いかにも外人ですって話し方しなくてもいいだろってさ。あはは」


「そ、そういえばそうだよね。私よりずっと大人なのにワタシって言われてどう返せばいいのか、困っちゃうね。」



「ねえ、ずっと大人って・・・僕はいくつに見えてる?
僕は27才なんだけど。」



「えっ!・・・30超えてるかなって思ってた。
学校の先生そんな感じの人多いし。」



「はぁ・・・。まわりから見ると、君は教え子にしか見えないんだろうなぁ。はぁ・・・。」
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