バーチャルウォーズ

雪美の母、浅岡結衣子は夫の公男から菅野咲の個人情報なるものをあらかじめ受け取っていて、好物と思われる手作りケーキを作って待っていた。


「おばさんが作ったケーキ、どう・・・咲くんのお口にあうかしら?」


「す、すごい・・・うまいです。
これ砂糖ってあんまり使ってないですよね。」



「そうなのよ~素材の甘味重視ってやつ。
咲くんはそういうケーキが好きだってあなたのお兄さんの弓くんから教えてもらったんだから。」



「えっ、兄にきいたんですか?・・・わざわざ僕のために・・・。」



「変な気を遣わなくていいのよ。同じ作るんだったら、好きなものがいいかな~って思ったのと、お兄さんはあなたの保護者なんだからうちでお世話させてもらうにあたってお話をしておかないとね。

2人ともご両親がいないのに真面目によくがんばってたのね。
おばさん息子がいないから、2人が立派に独立するのにお役にたてるなんてうれしくなってね。

いろいろと意思の疎通のいかないこともあると思うけど、遠慮なく言葉を発してちょうだいね。
男の子ってなかなか困ったことを言わないみたいだし、うちのお父さんもこっちからあれこれきかないと言わないのよ。

ちっちゃいことでもなんでも言ってね。」


「はい、ありがとうございます。」



「で、雪美と知り合いだったの?
同じ高校かな・・・とは思ってたんだけど・・・。」


ブッ・・・ごほごほ・・・。

咲と雪美はケーキをのどにつまらせそうになった。



「菅野先輩は生徒会長で、高校のみんなが知ってるよ。
私は、クラス委員に選ばれちゃったから放課後の運営委員会があるときに出席することになってそれで・・・。」



「まぁ~そうだったの。ステキィ~♪
イケメンの上に頭がよくって会長って憧れちゃうわね。
咲くんだったらファンの女の子多いんじゃないの?」



「いえ、べつに。仕事や風紀にうるさくてきびしいって嫌われてますよ。」


「それはお仕事に忠実だからだけでしょう・・・。
今、話しただけでも咲くんは好青年だわ。自慢の息子よ~

で・・・雪美、同じ家で住むことになって先輩とか会長って呼ぶのは変よ。」



「ええーーーっ!じゃ、私なんて呼べば・・・?
まさか、お兄ちゃんなんて・・・。もったいなさすぎです。」



「咲くんは雪美のことは学校だと浅岡~とか浅岡くんとか呼ぶのよねぇ。
そうねぇ・・・家庭らしくないわ。
雪美って呼びなさい。」


「ええっ・・・そ、それは・・・。」


「仮りでも家族なんだし、咲くんは雪美って呼ぶこと。
それと、雪美はん~~と・・・お兄ちゃんは・・・確かにいやらしいわね。」



「もう、ママったら!」



「僕のことは咲と呼んでいいよ。」


「えっ!?」


「僕だけ雪美と呼ぶのもなんだから・・・咲と呼んでくれ。」



「えっ、えっ・・・でも、でも、先輩その名前で呼ばれるのは嫌がってるって噂で・・・。」


「学校で言われると男子生徒は女の子みたいだってバカにしてくるからね。
でも、家で名前を呼ばれないっていうのは不自然だ。

ただし・・・学校ではいちおう今までどおりで・・・ってお願いしていいかな。」


「はいっ。了解です。さ・・き・・・さん。」



「咲だよ。」



「あ、私、宿題しないと・・・あとでね。・・・・さ・き。
きゃあーーーーーーー!!!」


「もう、あの子ったら。いくら咲くんが素敵だからって・・・露骨ね~♪」


「うっ・・・あ、僕も・・・宿題してきます。
ごちそうさま。これからよろしくお願いします。」
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