星月の君
2 奇妙な話と、その正体
待賢門外にある車へ向かう前に、同じく参内していた敦忠に私は運悪く捕まった。背後から「やあ行成」と声をかけられたら無視するわけにもいかない。
しかも隣には多少話したことのあるかないか微妙な、藤原顕季殿がいた。前に敦忠が「顕季は友人だよ」といった言葉は本当だったらしい。
姿が見えたから声をかけた。そういった敦忠を軽く呪いながら、どうした、という。
「さっき面白いことを聞いたんだけど、聞く?」
「聞かない」
「どうして!顕季にも話すつもりだから、君も聞いてくれたっていいじゃないか」
そう身をのりだすようにしてきたので「近い」と押し返す。
どうしたもこうしたもあるか。
敦忠がいう"面白いこと"はいつだって嫌な予感でしかない。どこぞの場所で幽霊が出るとか、どこぞの貴族の末の姫が美人だから一緒に行こうとか(これははずれだった、と敦忠がうなだれた)、面倒この上ない。
しかし、だ。
友人であるからには聞くべきだろうし、聞くだけならなんら問題はない。
それに敦忠と一緒にいた(多分捕まったのだろう)苦笑している顕季殿だけにこいつを押し付けるわけにもいかず、ため息まじりに続きを促せば、敦忠の表情が明るくなる。子供か。
「それがさあ―――――」