星月の君
門へ向かおうとするものたちをよそに、私と顕季殿はよくわからない話を聞かされていた。
語り終わった敦忠は「ね、面白いだろ」と得意げに笑うのだから、もうどうしたものか。私は頭が痛くなるような気がした。
「その若者の話ね、僕も見間違いだろうって思ったんだ」
「そうだろうな」
「いいや、ほかにもいるんだよ。目撃者が。しかも同じ場所で見たとか、笛の音を聞いたとか。それから」
「それから?」
顕季殿が続きを促す。
「でもね、毎日じゃないみたい。たいていは星か月が見える夜じゃないと駄目らしい」
そんな噂話にいろいろと脚色が加えられたのだろう。
どこぞの貴公子云々と、女房たちを主に噂をしているとかなんとか、という話を聞いたらしい。
どう思う?と私とずっと黙って聞いていた顕季殿に意見を求めてくる。
その辺の風流人が月やら星やら眺めながら、笛を吹いてまわっているだけなのではないかと私は思う。
私だってたまに月や星が美しく日には、空を眺めることだってあるのだ。おかしくはない。
そう口に出した私に、敦忠が不満を漏らした。